中村 勉賞
橋本夕紀夫賞
作品名称:『もうひとつの森 MARUHON FUKUOKA』
応募登録者名:志村 美治
応募カテゴリー:商業施設
審査講評(中村 勉)
前々回の中村勉賞は新宿オゾンの小さな無垢木材のショールームだった。
そのショールームの同じ材料そのものの濃密さを見せるというコンセプトが福岡の住宅地の中に楕円柱としての建築となり、その内壁に400点にのぼる無垢板が本棚のように圧倒的な木の空間となって立ち上がっている。原型としてはズントーのサンヴィッツのベネディクト教会の内部空間がすぐに思い浮かぶが、長楕円の空間の軸性を消しながら、ぱらぱらと棚から突き出た階段の段板に導かれるように、意識は上空へ向けられ、天井のか弱い天空光に昇華されていく。
この光も繁く刻まれた垂木の間から零(こぼ)れてくるのだが、この垂木も壁ではショーケースの棚を支える方立壁(ほうだてかべ)が上部で水平に折れて屋根を支えているのだ。展示の棚が建築の柱梁となり、インテリアと建築が上昇する空間と光によって一体となっている。
さらに1階のショールームの床は入口から4段下がり、周囲の棚下の床が机となって、デザイナーが見本の木片を自分のイメージと見比べて、さらに想いを掻き立てられるようなわくわくするワークスペースとなっている。
建築については言及できる資料が少ないが、木材から語り掛けられる濃密な空間をぜひ体験してみたいと思わせる作品となった。
審査講評(橋本夕紀夫)
木の香りが空間全体に漂っているようなショールームである。木の構造体がそのままサンプルを陳列する什器となり、そのサンプルも木なので、木、木、木の空間である。まさに建築・家具・商品が三位一体となり木が三つでこの作品の、もうひとつの森、というタイトルにもうなずける。
メザニンを含んだ2層分吹き抜けのゆったりとした楕円形のフォルムの空間も非常に気持ちがよく、全体を構成する木の質感ともよくあっている。この空間の持つ気持ちよさは何だろうかと考えた時、非常にシンプルであるが一つの答えが見つけられる。それは、すべてが本物の木であるということだ。最近のインテリアは、仕上げ材としてケミカルな材料を使用するということがすっかり定着してしまった。最新のプリント技術による本物の木材に非常に近い塩ビやアクリル樹脂等が開発され続けているおかげで、あまりためらいもなくそれらを使う事が一般化してきているように思える。しかし、どんなに精巧につくられたものであっても、やはり人工物は自然のものにはかなわないということを、このショールームは教えてくれているようである。